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海を見にきた日~3 month after

優乃と別れてからのこの3ヶ月、彼女のことを思い出す余裕もないまま、目の前を通過していく時間を塞き止めることができずに、過ぎて行った。

世を忍ぶ仮の姿(世間ではこれを本業と呼ぶらしいが)では、大阪のしんちゃん先生(税理士&中小企業診断士)のお友達先生の顧客案件プロジェクトは、かなり厳しい努力を必要としたがゆえに多忙の一因となったものの、まずは成功をおさめ、中小企業診断士からのビジネスチャンスをゲットするという意味合いにおいては、世間なみの感覚で言えば、社内評価のソロバン勘定は上々、次回のボーナス査定は二重丸、といったところではないだろうか。

ただ、むなしい。
ぽかりと心に穴が開いたようなという、月並みな手あかみまみれた表現ではあるが、日本語ってなんて的確な比喩を紡ぎ出してきたのか、としみじみ思う。

帰りの電車の中、大きな川を渡る鉄橋から、電飾が映えるテーマパークの観覧車を背景に、疲れ顔のもう中年と呼ぶにふさわしい自分の姿が、窓に映る。どぶねずみ色のスーツを着込んで、アクセントとして青いネクタイを締めてはいるが、それもまた、なんだか、である。

どうして、優乃は去っていったのか?そればかり考える男はみっともないとおもいながらも、こうした疲れが蓄積したときに限って、考えてもどうしようもない考えが頭をめぐる。
こういうとき、男は女々しいと思う。

客観的にみれば、この間のミュージシャンとハーフタレントの密会がワイドショーで大きな話題になったように、
世間的には
「非難されるべき行為」
なのであるが、そんなものくそくらえである。
実際に体験したこともないやつが、禁断の実というものがどれほど甘美なものか、そういう批判するヤツにはわからないのだ。

人というものは悲しいけれど、想像力には限界があるのだ。
体験したことないことを、理解せよ、とどれだけ叫んでも、遠吠えになることはこの世の常である。批判するやつなぞ太宰や谷崎の気持ち、いやいやサシコや峯岸の気持ちなぞさえも、ちーっともわからないはずだ!

万一、出るとこに出たら、こっちには岡崎教行という優秀な弁護士がついているのだ。彼にぼったくりのフィーとられたところで、いかほどのものか!俺と優乃の純愛を法廷で証明してやるわ!
(自分突っ込み。それじゃ、裁判負けるだろうが・・)

といったところで、もう優乃はそばにはいないのである。

いつの間にか電車は、日本の第2の大動脈である高速道路の下を潜って、いくつかの小川を越え、人口当たり一番の酒場密度である中都市に到着した。

電車を降り、階段を降り、改札を抜け、またまた階段を降り、ややとぼとぼと高架下を歩いていく。

「和尚!」

誰かが俺を呼んだのか?
そんな気がしたが、疲れているのでそのまま歩いていく。

「和尚~~!」

女の大声に振り向く。

そこには・・・

【続く】



by dojonagoya | 2016-02-20 02:00 | 小説

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